ごあいさつ

  
一般社団法人日本シミュレーション学会会長 佐藤 拓朗

2018年6月25日の総会にて本会会長を拝命ました古田です。

私は今でこそ認知・社会系のシミュレーションという、理系だか文系だかわからないようなフィールドで活動しておりますが、核融合炉の中性子輸送計算という純然たる物理現象を対象とするシミュレーションで学位をとりました。したがいまして、物理シミュレーションと認知・社会系シミュレーションの双方に対する感覚を持っているつもりです。そして、シミュレーション技術の可能性や適用可能な課題の拡がりについて、ほとんど疑いを抱いておりません。将来は科学的知見に基づく意思決定の手段として、シミュレーションの重要性がさらに増すことでしょう。

第5期科学技術基本計画で「Society 5.0の実現」が掲げられておりますが、これに倣ってシミュレーション5.0を提唱しようと思います。シミュレーション1.0とは人が過去の経験を未来の状況に外挿するナイーブな思考実験で、ツールを用いない原始的なシミュレーションです。これがシミュレーション2.0では数学的に表現された「理論」に基づく予測になり、精度は格段に向上しますが適用対象は厳密で理想化された系に限られました。シミュレーション3.0になってコンピュータと数値解法が導入され、3次元形状などの現実的な問題が扱えるようになります。しかし、非線形系や複雑系はまだ扱えません。シミュレーション4.0はエージェント指向モデルに代表される記号・離散系シミュレーションや非線形モデルの高度化により、複雑系、創発系のシミュレーションが可能になりました。

そして、次に来るべきシミュレーション5.0はリアルデータとの融合ではないでしょうか。シミュレーション4.0まではあらかじめ用意したデータに基づいてシミュレーションモデルを構築・調整し、それを用いてシミュレーションが実行されました。しかし、将来はインターネットやセンサーネットワークから取得した情報から有用な情報をリアルタイムで抽出・加工し、それを使ってシミュレーションするような技術が開発されるのではないでしょうか。これはシミュレーションのユビキタス化であり、これによって国連が掲げるSDGsの社会課題解決にも役立つシミュレーションが可能となるでしょう。日本シミュレーション学会は日本におけるシミュレーション技術に関する中核団体として、シミュレーション5.0の確立に貢献できると考えます。

日本シミュレーション学会は、年次大会の国際化、海外関連学会との連携、英文論文誌の発刊などの国際化をここ数年積極的に進めて参りました。また、このたびは学生会員の無料化を行い、若手人材の育成を推進することとなりました。会長就任にあたり、会員サービスの向上、新領域の開拓、産学連携、健全な財務体制などに加え、こうしたこれまでの実績の上にさらに本会の発展に微力ながら貢献したいと思います。

2018年7月17日